ゼロ・グラヴィティ理論 - はじめに -
私が21歳の時に経験した逸話
椎間板ヘルニアで長年苦しみ、心からスポーツを楽しむことができない時間がありました。
5分も椅子に座ることができず、机に向かうことも車に乗ることもできませんでした。
祖父の運転で片道2時間かけ、何度も隣町の病院に連れて行ってもらいました。
ブロック注射や牽引など、様々なことを試しましたが、効果がありません。
医師からは「ヘルニアの症状はあるが、手術するほどではないので様子をみましょう」と言われました。
地元の金融機関に就職が決まり、この状態ではデスクワークさえできず、不安を抱える日々が続きました。
ある日、知人に「顔が曲がっていますよ」と言われました。
家に帰り歯を磨いていると、口の横から水がタラタラ流れていたのです。
鏡を見ると、顔の右半分がひん曲がり、硬直していました。
感覚を失い、自分の意志では動かすことさえ出来なかったのです。
救急外来に駆けつけると、顔面神経麻痺と診断され、3週間の入院を言い渡されました。
原因は腰痛からくるストレスであったのです。
今でも顔の右半面に後遺症があります。
現在は正しい知識を学んだため、日常生活で腰痛を感じることもなく、日々の施術を行う中で痛みを感じることはありません。
あの時の痛みの原因は柔軟性の欠如により、全身の筋バランスが整っていないことにありました。
ハムストリングが硬くなり、股関節の回旋動作が正常に可動していませんでした。
本来であれば股関節で身体を捻るところ、腰で捻っていたので椎間板ヘルニアを発症してしまったのです。
正しい知識を知り、身体に合った改善方法を行うことが何よりも大事であることを実感しました。
多くの人がスポーツを楽しみ、身体の不調によって引き起こされる日常生活や職業に対する悩みを解決したい。
その思いがつまった「集大成」がこの一書であります。
スポーツの現場でよ聞く身体の悩み
私が代表を務めているコンディショニングサロン『カラダラボ』では、2013年のオープン以来、累計50,000人を超えるお客様が来店されております。
多くのスポーツを楽しんでいる方や、様々な競技の現役選手が悩みを解決するため訪れるのです。
また、学生の部活動を中心に定期契約をし、北海道から沖縄の全国各地に出向き、身体作りのお手伝いをしております。
全国を旅して悩みを聞いていくと、面白ことに、気候・文化・食べる物が異なると、作られる身体は変化します。
その中でこのような話を耳にします。
・スポーツは故障をするのが当たり前
・ストレッチは地味だし、痛いからやりたくない
・故障し、病院に行っても完全に治らない
・トレーニングと競技が結びつかない
・次の日まで疲労が残ってしまう
・監督、コーチ陣が選手に対してケアやストレッチを重要視していない
・長距離の走り込みでなぜこんなに走る必要があるのか分からない
・身体を大きくするのが当たり前
悩みに耳を傾け、1つずつ解決していきました。
その結果、年間を通して適切に身体作りを計画し実践すると、故障が激減し、運動パフォーマンスが向上することを証明できました。
ストレッチ・トレーニング方法は何が正しいのか
書店に足を運ぶたびに思いますが、ストレッチ・トレーニング・ダイエット本が世の中に溢れています。
その中で「何が正しいのですか?」という質問をよく受けます。
稀に書籍を拝読いたしますが、「間違っているものは少ないのかな」というのが本音です。
では、実際のトレーニングはどうでしょう。
旧来行われていたことと何ら変わらない種目を行っている場面が多く見られるのです。(もちろん様々な方策をとり、変化させようと努力されている団体も増えています)
若年層が身体の出来上がっていない状態でウエイトトレーニングを始めることは、関節可動域を制限し、関節や腱に負担をかけます。
彼らはポテンシャルがあるのに、故障を引き起こし、最大限の力を引き出せずに最も輝ける時間を終えてしまいます。
自身の身体を知り、順序立てて身体作りを行えば、多くの選手が次のステージへ羽ばたいていけるでしょう。
ゼロ・グラヴィティとは
ゼロ・グラヴィティとは重力が『0』になるわけではありません。
地球に住んでいる限り、人類は同じように重力の影響を受け、様々な姿勢維持を無意識に行います。
歩行動作も筋肉の均衡が保てなければ、足を一歩踏み出した時に倒れてしまします。
ピッチング動作は軸足一本で立ちます。
それに対して全身の筋肉をバランスよくつけなくては、スムーズな体重移動ができず、ボールにエネルギーを伝えることができないのです。
およそ250万年前、人類は四足歩行をやめ、直立での生活を始めました。
直立、つまり二足歩行の状態で疲れにくい身体を手に入れるために、地球の重力に対して姿勢を保持しようとする筋肉=抗重力筋のバランスを整えることがより必要になりました。
しかし、多くの人はウエイトトレーニングにより必要以上の筋肉をつけ、身体を大きくすることでバランスを失い、さらに身体にかかる重力を増加させてしまっています。
これでは身体が疲れ、運動パフォーマンスは低下します。
ゼロ・グラヴィティ理論の『ゼロ』は何もない『無』の状態ではなく、筋肉が重力に対して均衡が取れ、一番重力の影響を受けにくい状態のことをいうのです。
それには地球の重力に対し、2つの筋肉の均衡を保つ必要があると説きます。
2つの筋肉の均衡とは
①速筋群と遅筋群の表裏のバランスを整える
②速筋群は速筋群同士、遅筋群は遅筋群同士の連動を高める
この2つのバランスが適切であれば、抗重力筋作用が適正であり、重力に対してバランスよく筋肉がついているということになります。
これがグラヴィティに対して『0』で、一番重力の影響を受けずに姿勢保持ができ、最も身体を軽く感じ、運動パフォーマンスが発揮できるのです。
本書の構成
本書は理論編と実践編の2部に別れています。
2つの筋肉の均衡を手に入れる鍵は、人類史上の最大の出来事である『四足歩行が二足歩行に変化したこと』に隠されています。
移動手段から手が離れることで、生活文化が繁栄しました。
その反面、身体に悪影響を及ぼす2つのターニングポイントがあったのです。
1つは直立歩行へ進化し、姿勢維持に使用していた上腕二頭筋を、大脳を含めた中枢神経系の発達にシフトした。
そして、もう一つは定住地を定め農業を始めたことです。
この2つの時代にどのような症状が現れたのかを比べると、人間の本来もつ動きと連合しているのかが見えてきます。
我々の身体が、次なる進化を辿る道筋が書かれています。
トップアスリートであるイチロー選手とダルビッシュ選手の身体の鍛え方を学び、人間の進化とマッチングするにはどの手法が良いのかを論じていきます。
実践編では7つの新法則を用いて、パフォーマンスを爆発的に進化させるトレーニング方法を解説いたします。
身体のベース作りは、7つの新法則を順序立てて実践していく必要があります。
①柔軟性
・しなやかで弾力性のある筋肉
・柔軟性獲得で故障が減る
・輪ゴムのように伸び縮みする身体
②正しい姿勢
・足の裏のどこに重心を置くかで、疲労度が変化
・立ち姿勢と座り姿勢の正しいポイント
③PNF的対角螺旋運動
・PNFの解説(D1とD2ライン)
・神経伝達を促進させるにはラインで動くことが必要
・正中線の理解
④筋連鎖運動
・速筋群と遅筋群のバランス
・抗重力筋作用
・速筋群の筋肉を連鎖
⑤正しい重心移動
・小指球、内転筋、股関節の回旋運動
・小指球に乗ることで背骨が回旋しやすくなる
・頸椎、胸椎、腰椎、股関節の可動域の解説
⑥胸椎と肩甲骨の連動性
・お腹からではなく、背骨から回転する
・背骨と四肢の関係性を知る
⑦四足歩行
・背中の捻り返しが体幹部を強化
・切り返し動作が円滑になる
・危険回避能力が身に付く
7つの新法則を実践することで、二足歩行の人間が四足歩行の身体の使い方を獲得できます。
スポーツに限らず疲れにくく、そして疲れてもすぐに回復する身体を手に入れるためには、地球の重力に対しバランスの取れた筋肉が必要です。
グラヴィティ(重力)に対し、どう生きていくかは地球で生活する上で永遠の課題。
本書がその課題を克服し、皆様の身体作りに貢献できれば、これに勝る喜びはない。
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